第212回 高校無償化からの朝鮮学校排除に抗議する文科省前金曜行動

第212回 高校無償化からの朝鮮学校排除に抗議する文科省前金曜行動
2018年4月6日 
「食べるのが一番の楽しみで」と、朴裕美さんが目を細めながらイカ刺の肝をつまむ。

ノンアルコールカクテルを一口飲んだ姜義昭さんが、「こうやって、手を差し伸べながら

おもてなしをする安倍さんを見ると、あんな人でも、そういう面があるんだなって」と、

最低の政治家と思っている安倍首相を批評する。

わたしの隣に座ったOさんから、「20年も前に阿佐ヶ谷朝鮮学校の保護者だったんですよ」と

教えられて驚きながら、「ほら、この前ハッキョにうちの娘がお手伝いに行ったじゃないですか」と

言われ、そんなこともあったっけと、最近とみに衰えつつある我が記憶力に落胆する。

韓国から帰って来たばかりの我が文科省前のマドンナ、Cさんが死刑囚だったお父さんのことを

話し始めたので、それだけで、居酒屋「目利きの銀次」の2時間が終わってしまうと、

慌てて話を止める。

無償化連絡会代表のHさんが、「今日の彼女、奈々ちゃんの再来だね」と、

文科省の建物を見据えてすっくと立ち、毅然と発言した朝鮮大学生を評すると、

居合わせた面々が、「ほんとうにすごいね」と深く肯く。


 言いたい放題の時間はアッと過ぎてしまうが、多様な会員のいるオモニ会運営の難しさや、

ごく初歩的な国籍の問題なども教えてもらい、わたしにとっての朝鮮学校がここにもある。
得るものの計り知れない飲み会を主目的にしてもいいのだが、今日の金曜行動のすばらしさを

忘れるわけにはいかない。

そこには、常に増して、目を見開かせ、頭脳を刺激し、胸を震わせる活動が溢れていた。

 銀座線虎の門駅6号出口を登ると、文科省前には、相も変わらず、ほかにはない突風が

クスノキの若芽を食いちぎりながら吹き荒れている。

これを戒めと受け止めて、早々に無償化しろ!と、文科省の役人に心の中で悪態をつきながら

玄関前に立つ。
桜の散った文科省玄関前、オオムラサキツツジの咲き乱れる植え込みの花壇には、

寒い冬を堪え忍んだメキシコマンネングサの黄花以外にも、ゼラニウムやキンギョソウなど、

何種類もの花たちが競うように咲いて、学生たちの訪れを待っている。

 大学生たちが続々と結集し、定刻の4時を過ぎたので、流していたテーマソング「声よ集まれ」を

止めると、リーダーが激を飛ばし、最初の発言バッターが前に出てマイクを持った。
「文科省のみなさん!」最大限の音量で発せられた第一声に度肝を抜かれたのは、

わたしだけではないだろう。
「いつまで、こんなことを続けさせておくのですか」音量を下げる気配もなく続けられる

力強い彼の訴えには常にない迫力がある。
 日本語での訴えの後に、仲間の方に向いて朝鮮語で話す。

今までにない手法だが、意味がわからず、隣にいる留学同(在日朝鮮人留学生同盟)の青年に聞くと、

「自らの決意表明と仲間への激なんですよ」と教えてくれた。

大きな声で力一杯訴える話し振りといい、仲間の結束がための工夫といい、

しだいに意志的になっていく戦いに対する姿勢が伝わってくる。
 力強い学生たちの訴えが続き、リーダーの言葉に大きな拍手が鳴り響き、無償化連絡会の

Mさんが招かれて前に出る。

わたしに話しかけてきた青年に集会の趣旨を説明していると、韓国から来た留学生だと分かり、

モンダンヨンピル(韓国の支援団体)との関係を聞かれたが、詳しいことはわからない。

Mさんに声をかけ、紹介すると、朝鮮語で話しかけ、二人がペラペラ話すので、新参ものの

わたしは、驚きながら見ていた。

 そのMさんがマイクを持ち、おもむろに話し出す。
「少しお時間をくださるということなので発言させていただきます。わたしは、東京朝鮮高校生の

裁判を支援する会のお金を預かる会計をやっておりますMと言います。

わたしも、できる限り、この金曜行動に参加していますが、今日参加してくださっている学生は、

朝鮮大学の政治経済学部の学生さんとお聞きしました。

まさに今、日本の政治は、本当に、民主主義でもない、立憲主義も無視、とんでもない政治状況にあります。みなさん、若い力が日本社会も変えてくれると、いう、わたしは、希望を持たせてもらいたいなあと、

思います」。
 どう考えたっておかしなことが次々と起きていると、安倍政権の出鱈目さを突き上げる。

まじめな官僚が自殺し、人を殺してまでものさばっていこうとするこの政権が最初にやったことが

忘れられないと語る。
「それは、2月20日、朝鮮高校への無償化排除を決定したことです。この怒りが、本当に、

日本中に湧き起らなければいけないのに、残念ながら、まだまだ、日本人の中に、この問題を、

関心を持ってみてくれる人が少ない。本当に、申し訳ない、情けないという気持ちでいっぱいです」。
 日本人全体のふがいなさをすべて負ってしまっているMさんの言葉に、参加者全員が肯く。
 だが、批判の目は、除外の当事者、政権におもねる文科省に向けられなければいけない。
「文科省のみなさん!」と声を掛け、自分の辞書に、いじめとか、差別という言葉がないのかと問う。

文科省は、日常的に、各学校、教育委員会に対して指導する立場で、建前は、いじめをしないように、

差別がないようにと言っているのだが、実態は、真逆ではないのか。

杓子定規に語っている、「差別」や「いじめ」は、どういう意味なのかわかっているのか。

朝鮮高校を排除し、差別している相手に、差別を分かっているのかと正面切って問いかける。
 
「最近、お相撲の世界でも、女の子を土俵にあげないとか、市長さんたち、みんなに選ばれた

代表の市長さんまで、土俵に上がって、そして、メッセージを送れないとか、それが、

日本の伝統だという名前のもとに、あるいは、神事、神のやる事なので、それはもう動かせない

とかいう馬鹿な事が、ずうっと続いている。

伝統というのは、差別をすることではないと、わたしは思っています」。

暴力沙汰の絶えない相撲の世界にも、Mさんは苦言を呈す。

そんなものは、伝統でも何でもないのに、その差別性に気づかないのもおかしいだろうと。

相撲協会は、年収十億ぐらいある。

公益法人という名のもとに、実際に所得税を払っているのは、15万円。

国民の税金がつぎ込まれていくわけだ。それを差別といわないでなんだ。

女性差別が起きている。税金がそんな風に使われている。
「そして、森友の国有地の問題や加計学園には、400億ぐらい税金が投入されています。

そんな馬鹿な国がいつまで持つと思いますか。文科省は、しっかりと、自分の役目を考えて、

差別やいじめがない状況を作りなさい。そのためにこそ働きなさい。

あなたたちの辞書に、大きな文字で、『差別』『いじめ』を加えて、しっかりと勉強してください」。

 Mさんの声は、文科省の役人に届いているはずだ。心して聞いてもらいたい。
「一日も早く、無償化から排除されている朝鮮高校生のみなさんが無償化の適用を受けられるように、

各地の補助金が復活するように、わたしも、微力ながら頑張りたいと思います。共に頑張りましょう、ファイティーン!」

 二人の学生が前者たちに劣らない練られたパフォーマンスをした後、「Nちゃんの再来」と

Hさんが称する学生がマイクを持つ。

新参者のわたしは、Nさんをよく知らないが、高い背を真っ直ぐ伸ばしすっくと身構える姿は、

舞台俳優のようだ。
「文科省のみなさん!いつになったら、わたしたちに、高校無償化を適用してくれるのでしょうか。

そもそも、高校無償化法案の目的に照らすならば、朝鮮学校がその対象に含まれるのは当然であり、

法的にも、人権尊重の見地からも、それを除外する合理的理由はありません」。

「まったくだー!」とYさんの声が飛ぶ。
「それにもかかわらず、無償化反対論が日本社会で根強いのはなぜなのでしょうか。

その根底には、朝鮮学校、ひいては、在日コリアンに対する無知や偏見、誤解があります。

また、子どもの学ぶ権利を尊重し、守るという、本法律についての理解が十分なされていないと

いう点にも問題があります」。
 政治経済学部の学生らしい、問題の本質を突く分析が続く。

高校無償化制度の不適用を上塗りして、朝鮮学校に対する公的助成からの排除は、今もなお続いている。

先日、大阪補助金裁判の控訴審では、原告側の学校側の請求を全面的に棄却する判決が下された。

判決によって、日本政府は、学生たちに、補助金を諦めて民族教育を続けるのか、あるいは、

同化して、補助金という恩恵を受けるのかという、受け入れられない二者択一を強いてきた。

それを飲めというのは、在日朝鮮人の人としての尊厳を踏みつけるものだ。

政治的理由により、大阪府、大阪市が朝鮮学園に対して補助金を交付しなかった行政処分は、

そのことが学習権、ひいては、民族的マイノリティの教育への権利を侵害する。

在日朝鮮人は、日本の朝鮮に対する侵略と植民地支配によって生まれてきた存在であり、

朝鮮学校で学ぶ子どもたちは、もとをただせば、日本の国家犯罪が原因で存在するようになったのだと

追及を続ける。
 国際人権規約、人差別撤廃条約、および、子どもの権利条約などに照らし合わせても、

それを持ち出すまでもなく、本来、日本政府は、在日朝鮮人の民族教育を厚く保護、

推進するのが本来の仕事なのだ。

しかし、現実は、日本の敗戦後から、現在まで、常に弾圧し続けてきた。

今回の判決は、過去の国家犯罪を反省しない、責任もとらないという、日本政府の、

今も昔も変わらないという姿勢を示した判決だとの分析は明晰だ。

そして、日本政府及び地方自治体が、朝鮮学校だけを助成制度から排除することは、

民族教育の権利を侵害するという意味において、不当な民族差別であるにとどまらず、

在日朝鮮人は、差別されて当然という、上からのヘイトスピーチを日本社会へ発信することになったと、

彼女は糾弾する。全くその通りだ。
 しかし、そんなことに負けるわけにはいかないと、彼女は、こう宣言する。
「このような不当な差別が続けられるにつれ、学校関係者や保護者、弁護団、日本人支持者たちの

裁判闘争という新たな戦いへと進む高揚感、絶対に勝利するという決心と意気込みは、

日に日に強くなる一方です。この長期にわたるであろう戦いを、どっちが忍耐強くい続けられるか、

文科省のみなさん、わたしたちと勝負しましょう」。
「よく言ったあ!」と文科省前の貴公子、Yさんが決める。
 文科省前で色とりどりに咲く花々に似て、ここに立って民族の誇りをかけて自分の思いを

表現する学生たちのは、凛々しく、すがすがしい。

わたしは、心を洗われながら、自らの歩むべき道を模索する。

 

(facebook  Bさんの記事より)

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